うつ病には多様な症状があり、人によって異なります。
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気分の変調がある場合、うつの初期症状と言えます。
うつは薬物療法がメインとなっていますが、東洋医学でもしっかりと説明が出来、改善を目指す事が出来ます。
うつ病は中医学では鬱証と呼び、その病変臓腑の中心は、心・肝・脾の3つですが、他にも腎・胆・肺などの臓腑へ波及して起こる場合もあります。
中医学では、うつの初期症状を6つのタイプ別(六鬱、気鬱・食鬱・湿鬱・痰鬱・血鬱・火鬱)に分けて考えます。
ここではその六鬱とは何かと、治療原則をお伝えします。
六つの鬱
①気鬱
外からのストレスがたまり、気が滞った状態(気滞)です。
気滞と関連が深い臓は肝で、ストレスにより肝の条達(木の枝が伸び伸びと育って行く状態)が阻害された状態です。肝は気の流れをスムーズにするという働きがある為、肝の働きが弱まると気の流れが滞り、「肝気鬱結」という状態になります。この状態を気鬱と呼びます。
憂鬱やストレスなどが原因により、気の巡りが阻害されて肝気鬱結が生じる。
イライラしやすくなったり、お腹の張り感、症状がストレスにより悪化するという特徴があります。
憂鬱・思い悩み・怒りなど
↓
条達を失う
↓
肝気鬱結(気鬱)
②血鬱
気鬱が進行し、血の流れが阻害された状態(気滞血瘀)です。
血は気の働きによって運行されます。気の流れが悪くなると、血の流れも滞っていきます(瘀血)。
瘀血は痛みを生じやすく、痛みの特徴としては同じ場所がズキズキ痛み、夜に出現もしくは悪化するという特徴があります。
肝気鬱結(気鬱)
↓
血の流れを阻滞
↓
気滞血瘀(血鬱)
③火鬱
肝気鬱結が長期化し、熱化した状態(気鬱化火)です。
以上の症状以外にも、目の充血や喉の渇き、めまい、耳鳴り、便秘などの症状が出ます。
肝気鬱結(気鬱)
↓
更に滞り、熱化
↓
気鬱化火(火鬱)
④湿鬱・⑤痰鬱
長引く思い悩みや気鬱により、内臓機能(脾)が弱まり体内の水分代謝が滞った状態です。
脾には消化や代謝を司っている為、精神疲労やストレスなどにより内臓機能が弱まり、余計な水分が溜まっている状態(湿停・気滞痰鬱)です。
肝気鬱結
↓
脾の機能低下
↓
水分代謝の低下
↓
体内に湿が溜まる
↓
湿鬱
①気鬱と④湿鬱が結びつく
↓
痰鬱
⑥食鬱
ストレスにより脾が弱まり、胃に内容物が滞った状態(食滞)です。
食欲が落ちたり、胸のつかえ感があったり、胃酸過多といった症状が出ます。
肝気鬱結
↓
脾の機能低下
↓
胃の消化機能低下
↓
内容物の停滞
↓
食鬱
中医学から診たうつ病の診断名(弁証名)
初期
肝気鬱結
症状:イライラしやすい、情緒不安定、ため息やゲップが良く出る、お腹や脇が良く張る、生理不順など
治療:「疎肝理気」
漢方:柴胡疎肝湯
養生:
気滞血瘀
症状:肝気鬱結の症状に加え、痛みを感じやすく、張ったような痛みだけでなく、ズキズキとした痛みが生じる
治療:「理気活血」
漢方:血府逐瘀湯(けっぷちくおとう)
気滞痰鬱
症状:肝気鬱結の症状に加え、喉のつかえ感や吐き気などが生じる。舌に白い苔が増えるなど
治療:化痰理気
漢方:半夏厚朴湯
気鬱化火
症状:肝気鬱結の症状に加え、耳鳴り、頭痛、目の充血、口の苦味など
治療:清肝瀉火
漢方:加味逍遙散合左金丸
慢性期
憂鬱傷心
症状:肝気鬱結の症状に加え、頭がぼーっとして働かない、悲しみや憂鬱感が強くなり、良く涙が出てしまう。
胸のざわざわ、不眠症状、動悸、身体に痒みや虫の這う感じが出るなど
治療:養心安神
漢方:甘麦大棗湯
心脾両虚
症状:肝気鬱結の症状に加え、動悸、浅い眠り、物忘れ、食欲不振、めまい、顔色が悪くなるなど
治療:健脾養心
漢方:帰脾湯
陰虚火旺
症状:肝気鬱結の症状に加え、めまい、動悸、浅い眠り、腰や膝の重だるさ、手足の火照り、寝汗など
治療:滋陰清熱
漢方:滋水清肝飲
治療原則
初期の六鬱は気鬱を中心とした肝・脾によるものが多いですが、慢性化すると心肝脾腎の気血陰精が損耗していきます。
初期の治療の場合、気鬱に対する治療をメインに行い、他の五鬱に応じた治療を行います。
慢性期の治療の場合、損耗している気血陰精に応じた治療が必要になって行きます。