現代医学から見た不眠症(睡眠障害)
ここでは、現代医学で言われている不眠の原因や分類などを大まかに説明しています。
中医学から見た不眠の原因は、「睡眠障害・自律神経失調症に対する鍼灸施術とは」をご覧ください。
不眠の原因5つのP
1.身体的原因(physical)
・疼痛、掻痒、頻尿、呼吸困難などをもたらす身体疾患
・熱性疾患
・腫瘍
2.生理学的原因(physiologic)
・時差症候群
・交代制勤務
・短期間の入院
・不適切な睡眠衛生
3.心理学的原因(phychologic)
・精神的ストレス
・重篤な疾患による精神的ショック
・生活状況の大きな変化
4.精神医学的原因(phychiatric)
・うつ病
・アルコール依存症
・不安障害
・パニック障害
・統合失調症
5.薬理学的原因(pharmacologic)
・アルコール
・カフェイン
・ニコチン
・精神刺激薬
・抗うつ剤(MAO阻害薬・SSRI・SNRI)
・抗パーキンソン病
・抗認知症薬・脳代謝改善薬
・抗菌薬(ニューキノロン系)
・抗腫瘍薬
・降圧薬
・利尿薬
・強心配糖薬
・気管支拡張薬(テオフィリン)
・消化性潰瘍治療薬(H2ブロッカー:シメチジン)
・甲状腺製剤
・インターフェロン製剤
・ステロイド
・片頭痛治療薬
・消炎鎮痛薬
・鎮咳薬
不眠症の4つの分類
現在、不眠症は以下の4つに大きく分けられて考えられています。
「入眠困難」 → 夜間中々入眠出来ず寝つくのに普段より2時間以上かかる
「中途覚醒」 → 一旦寝ついても夜中に目が醒め易く2回以上目が醒める
「早期覚醒」 → 朝普段よりも2時間以上早く目が醒めてしまう
「熟眠困難」 → 朝起きたときにぐっすり眠った感じの得られない
これら複数が合わさって起こる場合もあります。
不眠症を診断するときの基準(睡眠障害国際分類第2版)
以下A・Bに該当し、Cの項目を一つでも満たすと、睡眠障害と診断される
A 睡眠の質や維持について訴えがある。
B 訴えは適切な睡眠環境下において生じている。
C 以下の日中の機能障害が一つでもある場合。
(1)倦怠感あるいは不定愁訴(検査をしても異常がないが、体調不良がある)
(2)集中力、注意、記憶力に問題がある
(3)社会的機能の障害
(4)気分がよくない。あるいは焦った感じがする。
(5)日中の眠気がある
(6)やる気が起きない
(7)仕事中、運転中のミスや事故の危険を感じる
(8)睡眠不足のため緊張、頭痛、胃腸に症状がある
(9)睡眠に関する不安がある
(全日本民医連より引用)
また、日本睡眠学会での定義では、入眠障害、中間覚醒、熟眠障害、早朝覚醒などの訴えのどれかがあること。 そしてこの様な不眠の訴えがしばしば見られ(週2回以上)、かつ少なくとも1ヵ月間は持続すること。不眠のため自らが苦痛を感じるか、社会生活または職業的機能が妨げられること。などの全てを満たすことが必要。
なお精神的なストレスや身体的苦痛のため一時的に夜間良く眠れない状態は、生理学的反応としての不眠ではありますが不眠症とは言わない
としています。
これを見ると、睡眠時間の長い短いではなく、「本人が睡眠について悩みがあり、
本来なら寝られる環境なのに寝られない」悩みを持っていて、倦怠感や集中力が低下するなど、
実際に日中の生活に差し支えがあれば不眠症と診断している事がわかります。
睡眠に影響を与える11つの因子
年齢
一般的には、年齢が上がるにつれて睡眠時間は減少します。1日当たりに必要な睡眠時間は、成人は7~9時間で、高齢者は5~7時間へ下がっていきます。
体格
体重の増加に応じて、睡眠時間が長くなる傾向にある事も言われています。高度な肥満は睡眠時無呼吸症候群を引き起こしやすく、それにより睡眠障害の発症要因となる可能性もあります。
運動
適度な運動は睡眠の質を上げる効果がありますが、急激で激しい運動は睡眠にとて好ましくはありません。特に、眠る直前の激しい運動は覚醒傾向を強めてしまい、眠れても呼吸が多くなり体温も低下しにくいなど、睡眠の質を低下させてしまうケースが目立ちます。
温度
睡眠に最適な温度は、冬だと16~20℃、夏では25~28℃と言われています。部屋の温度がこれ以上下がったり、また体温が低いと、寝具に丸まるような姿勢を取り緊張が強まります。また温度が高いと、体動が多くなって覚醒しやすくなってしまいます。
また、体温が低くても睡眠の質は下がります。特に眠れない人は足が冷えている場合がとても多いです。
・お風呂に入る・足湯をする・足元にあんかを置く・お灸をするなどで、足元を暖かくする「頭寒足熱」を意識してみてください。(当院では、ご自宅で出来るセルフお灸もご用意がございます。ご希望であれば、お申し付けください。)
湿度
睡眠に最適な湿度は、一般的には50~65%と言われています。
照度
光に関しては個人差がとても多く、部屋が明るくないと眠れないという方もいらっしゃいますが、一般的には蛍光灯の光くらいの100ルクス以上になると、睡眠時の脳波パターンに変化が生じてしまい、睡眠が障害されると言われています。逆に真っ暗でも不安感が強まり、同じように脳波に変化が生じてしまうと言われています。
最適な明るさは、目が覚めた時に周囲の状況が判断できる程度の明るさと言われています。
ご自身に合った明るさを見つけてみてください。
騒音
私たちの脳にとって、望ましい音の大きさは40~50db(デシベル)と言われていて、これは静かな住宅街や図書館内での音の大きさと同じくらいです。街頭や駅のホームのアナウンスだと70dbは超えてきてしまうので、これも、脳にとっては少し強い刺激となります。外出から戻られた後は、意識して静かに過ごすようにしてみてください。
寝具
私たちは、寝ている間に20~60回寝返りを打つと言われています。その為、柔らかすぎるマットレスや枕、重いかけ布団などを使用すると、うまく寝返りを打てずに睡眠の質を低下させてしまう原因になります。
感染
一般的には、風邪などの感染症により免疫力が向上すると、睡眠欲求が高まる事がわかってきています。
月経周期
女性の場合、月経前にはレム睡眠が増加し日中に仮眠を取る傾向が強くなる事が分かっています。
睡眠と年齢の関係
睡眠のパターンは、年齢によっても変化します。
生まれたばかりの赤ちゃんは、ミルクを飲むとき以外ほとんど眠って過ごします。
赤ちゃんから6、7歳頃までは、昼も夜も眠る「多相性睡眠」というパターンです。
10歳を超えてくると、睡眠は夜だけの「単相性睡眠」になります。
そして、還暦を過ぎると、また「多相性睡眠」になる事がわかっています。
しかし、かといって睡眠パターンが完全に子ども返りをしてしまうわけではありません。
むしろ年齢を重ねると、子どものようにぐっすり眠るのは難しくなります。
一般的な睡眠では、
ノンレム睡眠(stage1)
↓
ノンレム睡眠(stage2)
↓
ノンレム睡眠(stage3)
↓
ノンレム睡眠(stage4)
↓
レム睡眠
の順に眠りが深くなっていきます。
しかし、年齢を重ねると、徐々にステージ4のノンレム睡眠とレム睡眠が短くなる事が分かっています。
深い眠りがしにくくなり、浅い睡眠になっていきます。
そのため、睡眠途中で起きてしまう「中途覚醒」や早朝に目覚めてしまう「早期覚醒」が多くなってしまいます。
また、夜中にトイレに行く回数も増えたりと、熟睡できる機会が減ってしまうのは事実です。
加齢による睡眠の変化
-
寝付くのに時間がかかるようになる
-
ステージ4のノンレム睡眠が減る
-
レム睡眠が短くなる
-
夜間尿で起きる機会が増える
しかし、これらの変化は、脳の「睡眠要求量(睡眠の必要性)」が少なくなってきている事に起因するものなので、
単に睡眠時間が短くなっているのであれば、そこまで心配する必要はありません。
睡眠時間の減少以外に、むずむず脚症候群や睡眠時無呼吸症候群の徴候が出てきたり、手足や胸のほてり感や異常な寝汗などを伴ってくると問題です。
睡眠負債とは
睡眠負債とは、不足している睡眠時間の事を言います。
(普段8時間眠る人が、5時間しか眠れなかった場合は3時間の睡眠負債があるという考えです。)
これがなぜ「負債」という言葉を使っているのかというと、これがお金の負債と同じように、
いつか返済しなければいけないからです。
1日3時間の睡眠負債がある人は、5日間で15時間に及ぶので、休日にその返済をしなければなりません。
しないままでいると、どんどん蓄積され、昼間の強い眠気や疲労感へと繋がっていきます。
脳はこの睡眠負債を最大2週間把握出来ると言われていますが、これは今までで最長の調査が2週間だったというだけで、
それ以上蓄積されていく可能性もあります。
この睡眠負債を返済するには、夜間の睡眠のみではなく、昼寝も効果的と言われています。
昼間の強い眠気や疲労感、集中力の低下や仕事でのイージーミスなどが続いてしまった方は
この睡眠負債が蓄積されているかもしれません。
とは言っても、睡眠負債が全くない状態は逆に睡眠の質を落としてしまう事もわかっています。
睡眠負債が数時間の場合、睡眠効率は89〜95%に達すると言われています。
これは、ベッドに入っている時間の内、目が覚めているのはわずか5〜11%である事を指しています。
ところが睡眠負債がゼロになってしまうと、効率は60〜85%に落ちてしまうようです。
「ちょっとだけ睡眠不足」が快眠のコツのようです。
睡眠負債測定テスト
次のような状況の時に眠ってしまうかどうか、0点から3点までの範囲でチェックしてみてください。
0点:眠くならない
1点:たまに眠くなってしまう
2点:わりと眠ってしまう
3点:ほぼ確実に眠ってしまう
- 座って本を読んでいる時
- テレビを見ている時
- 劇場や会議の席など、ほかの人もいる場所で何もしないでじっと座っている時
- 1時間続けて車に乗っている時 (運転はしていない
- 午後ずっと横になっていても良い時
- 座って誰かと話をしている時
- 昼食(アルコール類はなし)の後、じっと座っている時
- 車にのっていて渋滞に巻き込まれ、数分停止している時
合計点
0〜5点:睡眠負債はゼロか、あってもごくわずか
6〜10点:中程度の睡眠負債がある
11〜20点:重い睡眠負債がある
21〜24点:睡眠負債は限界に近い
いかがでしたか?「毎日7時間寝ているから大丈夫」と思っている方でも20点前後の場合もあります。
その言う場合は、その方の必要な睡眠時間は8時間以上かもしれません。
平均的な睡眠時間を取っているにも関わらず、昼間に強い眠気を感じたり、身体がだるかったりはした場合は、
あなたにとって必要な睡眠時間を取れていないのかもしれません。
睡眠不足と情動の関係
〜寝不足だと、感情を抑える機能が落ちる〜
私たちの脳の中には、外から入ってきた情報を有益か有害か、快か不快かなどの判断を行い、自律神経・内分泌・骨格筋系による身体的な反応や行動、喜怒哀楽などの感情的な反応を引き起こす扁桃体と呼ばれる「情動と本能行動の中枢」があります。
特にネガティブな情動に重要な役割を持っていて、危険や恐怖を感じた時に逃避行動の反応を起こさせます。
この情動を、意欲や倫理観、集中力などの理性と呼ばれるものを司る前頭前野がコントロールする事で私たちは
情動と理性のバランスを保っていると考えられています。
睡眠不足になると、この前頭前野の機能が弱まり、扁桃体の活動が強まる事が分かっています。
言い換えると、ネガティブなものに敏感になり、それを理性で抑えるのが難しい状態になってしまいます。
上の例だと、「嫌だな、断りたいな・・」という気持ちが抑えられずに、感情が顔や態度に出てしまいます。
睡眠不足でイライラするのは、単に眠れていないからではなく、こういった中枢系からの影響が考えられています。