動悸の中医学的概念

動悸は、中医学では「心悸」「怔忡」「驚悸」などと呼ばれています。

『悸』は、「ドキドキする」や「跳ねるように動く」という意味があります。

『心悸』とは、動悸がして不安を伴う病証を言い、本病は不眠・物忘れ・めまい・耳鳴りを伴う場合が多くあります。

「心悸」「驚悸」「怔忡」の違い

「心悸」・「驚悸」

「心悸」と「驚悸」はほぼ同じ意味。

重症度:軽度
発症:発作的
病因:ストレス・過労
病理:機能の失調(自律神経の乱れや心臓のポンプ機能の低下など)
予後:良好。発作時以外は健常者と変わらない。

「怔忡」

重症度:重度
発症:持続的
病因:ストレスや過労以外でも、常に症状がある。
病理:心臓の器質的損傷(狭心症や心筋梗塞など)
予後:人により異なる。的確な処置をしないと、重病化する事もある。

 

中医学から診た、動悸のタイプ

中医学で効果が期待される動悸は、自律神経などの乱れによって起こるものです。
中医学から診た動悸のタイプを、原因や発生のメカニズムと共に解説します。

代表的な動悸のタイプは5つ

  • 精神不安タイプ(心胆気虚)
  • 血不足タイプ(心血不足)
  • 冷えタイプ(心陽虚)
  • 血行不良タイプ(瘀血)
  • 熱タイプ(痰火擾心・陰虚火旺)

です。

ひとつひとつ、解説をしていきます。

 

①精神不安定タイプ(心胆気虚)

動悸は、心臓に何かしらの原因があり起こると考えられていますが、中医学では心と身体は密接に結びついていると考える為、精神的にショックな事や驚く事が原因で起こる動悸もあります。

昔から、「胆っ玉」という言葉がありますが、この胆がすわっていないと、人はちょっとした事でビクッとしたり、オドオドしたり物事が中々決められない優柔不断になってしまいます。

これを胆虚と言いますが、この精神状態が心にまで影響してくると、動悸が起こります。

性格的に胆虚の場合や、何か精神的にショックな事が起きて気が逆乱する事で、心が乱れて起こる場合もあります。
この場合は自制できないほどの不安感も現れます。
進行すると、ちょっと驚くような事が起きた場合でも、動悸が止まらなくなってしまいます。

この状態を心胆気虚と言います。

特徴としては、驚きやすい、不安が強い、精神的に落ち着かない、普段はなんともないのに特定の場所や人で症状が出る、眠れない、夢を多く見るなどの症状を伴います。

icon-chevron-circle-right「心」と「胆」の気を補う事で症状が改善していきます。
このタイプの場合、強い音や光、精神刺激などはなるべく避け、穏やかに過ごす事が大切です。

おすすめの食材:小麦、とうもろこし、やまいも、きのこ類、ごま、サケ、ブリ、鶏肉など

②血不足タイプ(心血不足)

中医学では、心は血で栄養されていると考えます。

その為、栄養不良や長引く思い悩みで血が不足すると、心を栄養出来なくなり精神的に不安定となり、動悸が起こります。
過度な出血や慢性疲労、長引く思い悩みや栄養不良などが原因で起こります。
また、血を作る臓の脾が何かしらの原因で弱まる事で血不足になります。

特徴として、顔色が悪く艶がない、めまい・不眠症などを伴う、動悸の症状はそこまで強くなく、「トクトク」した動悸がずっと続く。

icon-chevron-circle-right 「血」を補う事で症状が改善されます。


「血」を補う代表的な食材

  • レバー
  • なつめ
  • プルーン
  • くるみ
  • アサリ、イカ、ホタテ、マグロなどの魚類
  • やまいも、にんじん、ほうれん草、小松菜などの野菜

 

③冷えタイプ(心陽虚)

体を冷やす生活習慣や大きな病気で体力が著しく消耗されると、身体を温められなくなると、その冷えが心に影響し動悸が起こります。

特徴としては、手足の冷えや胸の詰まる感じ、冷えなどがあり、体力の低下し、寒い場所で症状が出たり悪化したりします。

icon-chevron-circle-right まずは「冷え」を取る事が最重要です。
 露出の少ない服装をしたり、お風呂に入ったりお灸をしたりして、身体を温める習慣をつける事が大切です。

 

④血行不良タイプ(心血瘀阻)

冷えや運動不足、イライラなどで血の巡りが悪くなり、心が血に栄養されなくなった事により起こります。

特徴としては胸の詰まり感や顔色が悪い、爪や唇や舌が青紫になる。クマがある。胸の痛みなどを伴います。

icon-chevron-circle-right 血の巡りは、冷えやストレス、筋肉の緊張や運動不足などで悪化します。
 日常生活でこれらの事に注意をしながら、血の流れを良くするツボ押しや漢方などで改善されます。

おすすめ食材
  • きくらげ
  • トマト
  • たまねぎ
  • ニラ
  • なす
  • 黒豆
  • サフラン
  • アジ、サケ、サバなどの魚類

 

⑤熱タイプ(痰火擾心・陰虚火旺)

熱タイプは2つあります。

一つは体内で熱が強くなって起きるもの(痰火擾心)と、冷やしたり潤す力が弱くなった事で相対的に熱っぽくなり起こるもの(陰虚火旺)です。

⑴胃腸の水質代謝異常による熱(痰火擾心)

脂っこいもの、甘いもの、味の濃いものなどの食べ過ぎやアルコールの飲み過ぎにより、胃腸機能が停滞してしまうと、余計な水分(痰)が生まれ、それが滞る事で身体に熱(痰熱)が生じてしまい、その痰熱が心に影響すると、動悸が起こります。

不安感や胸に熱を感じる、口が苦い、食事やアルコールで悪化、痰が良く出るなどの特徴があります。

icon-chevron-circle-right 食生活やアルコールに気をつけて、運動などで胃腸機能を活発にさせる事で改善されます。

 

⑵冷却・潤い不足による熱(陰虚火旺)

慢性病や過度の疲労など、慢性的な夜更かしや夜勤などは、身体の陰を消耗します。陰は身体を潤したり冷やしたりする為、その陰が減った事で相対的に体が熱化してその熱が心に影響すると、動悸が起こります。

冷えのぼせが、手の平や足の裏や胸の火照り、寝汗、喉の乾きなどを伴います。

icon-chevron-circle-right 「陰」は睡眠で得られます。
質の高い睡眠を意識して取り、陰を補う食材などを積極的に摂る事で改善されます。

「陰」を補う代表的な食材
  • ゆり根
  • いんげん
  • しいたけ
  • たまご
  • 鴨肉
  • 松の実

 

如何でしたでしょうか。

一言で動悸と言っても、色々なタイプがあります。

こういったタイプが単独で出現する時もあれば、組み合わさって起こる場合もあります。

動悸は深刻な病気が隠されている事もあるので、長引く動悸は専門医に診てもらってください。

また、ここで紹介している養生法はあくまで一般的なものです。
通院等をされている場合は、主治医にご相談の上、検討してみてください。

 

中医学から診た各種疾患